【祝2018舞台化】映画 泥棒役者 エキストラレポ・ドキュメンタリー《前編》
ー2017年2月某土曜日ー
お目当ての彼は当日生放送、大阪にいるのはわかりきっていたし、贅沢なことに当選しておきながら参加するかどうかを前日まで渋っていた私は、当日早朝、ロケ現場である埼玉の川口駅に友人と降り立っていた。
天気は曇りと晴れの中間くらい、悪天候でなかったのは有り難いが当然真冬の気温、息が白い。
集合場所である広場の真ん中で待っていたスタッフさんへ受付を済ませ暫く待機。
そう、則男にヘッドロックされたはじめが連れて行かれたあの広場だ。
下方、木と木の間にポツンとあるベンチ、あれこそはじめが放り投げるように座らされたベンチと思われる。
待ち時間の間に座ったベンチが他のベンチだったことが今思い返せば全く口惜しい(TT)
話を戻そう。
暫くその広場で待機し、スタッフさんが皆に説明を始めた時、集まった人数は恐らく50人程度しか居なかったように見えた。
自分達以外の参加者を横目で見たが、なるほど若い男性も中年男性もおり親子連れ、制服姿の女子高生もいる。
街中のシーン、色々な年代の人をバランス良く選出した感じだ。
そしてA、Bチーム二手に分けられた後移動、Aチームとなった我々は先導され陸橋の上に上がった。
荷物を置き遙か前方に視線を送ると、もう撮影準備は既に整っている感じに見えた。
様々なスタッフさんに囲まれて小柄な可愛らしい女の子がいる。
髪を直してもらったりしている様を見る限りキャストの方だろう。
(※その時点で主演以外のキャストはまだ発表になっていなかった)
‥誰?
かなり目で追ったが全然わからない。
そんなところに、助監督さんに紹介され西田監督が現れた。
おお‥!何度もネットで見たあの監督‥彼とも仲睦まじいと噂の‥!
私のミーハーと尊敬半々の眼差しの先、監督はエキストラ皆に実に感じよく挨拶し、撮影参加への感謝と、エキストラの出演が如何に重要かなどを熱っぽく語り、よろしくお願いしますと言って去っていった。
実に爽やかで大変好印象だ。
そこから助監督さんにバトンタッチ、本格的にエキストラそれぞれに立ち位置、おおまかな演技指導などし、皆それぞれ指示通りに移動や待機を開始する。
季節設定は秋口、厚手の上着は脱いだり、薄手のコートに着替えたりしなくてはならない。
私もヒートテック2枚を下に仕込んだとニットのみで指示された位置に立つ。
‥その間にも気になるのがさっきの女の子。
あまり視力が良くないのがこんな時呪わしい。
遠目にも、可愛らしいワンピを着て髪をカールさせているのが確認出来、しっかりめのメイクをしているのはなんとなくわかる。
監督と演技の打ち合わせかずっと話しているが、非常に親しげな雰囲気で屈託なく笑ったりしている様子。
‥誰かに似てるよなぁー‥
そんなことをボーッと思っている間に撮影準備が完了し、本番の声がかかり場が一気に引き締まる。
エキストラとしての最初の演技。
指示通り、女の子がいる曲がり角に向かって歩きながら途中のティッシュ配り役の方からティッシュを受取りつつ歩き去る。
カットがかかりその場に留まりながら、すぐそこの立ち位置になった例の子を盗み見る。
‥ん?
え‥この子‥高畑充希に似てる?
そこから同じテイクを繰り返したが、私の心は完全に高畑充希かと思われる女性に奪われていた。
高畑さんのビジュアルに関してはとと姉ちゃんのイメージが非常に強く、すっぴんに近いナチュラルメイクで清楚な印象が強かったから、えーこんなに可愛いのか!という(大変失礼ですが)驚きの眼差しでまじまじと見てしまった。
ヒールを履いてもなお小柄で、可愛らしいヒラヒラしたワンピースからほっそりした綺麗な脚がすらりと伸びている。薄手のストッキングだけだが、流石震えそうな寒さを微塵も感じさせない佇まい。
タイツの上にデニムを履き更にブーツで防寒してもちょっとブルブルしている己が恥ずかしくなってくる。
急に出現した(言い方)旬の主役級女優をドキドキしながらチラ見するのも束の間、次のシーンではなんと、彼女のすぐ後方から歩き出すという役割・立ち位置に配置された。
ここまで、本編を観た方はもうおわかりだろうが、待ち合わせのシーンの撮影である。
映画の場面にすると、なかなか来ないはじめを待ち侘びている美沙へ、仕事が入ったから行けなくなったというはじめからの連絡が入るところ。
カメラから程近い場所に佇む私のすぐ脇を、カメラテストやら何やらのためか何度も高畑さんは行ったり来たりし、その度本番の撮影よりもドキドキしその愛らしい姿を横目で追っていた。こちらに顔を向ける時などはあまりに近いため目が合ってしまったらどうしようと(片思いか)逆に緊張してこちらが目を逸らしてしまうほどの距離だった。
そうこうしている間に本番の声、急ぎ足で歩いてみて下さいという演技指導を忠実に守った私の演技の甲斐もあったのか(高畑さんの演技が99.9%に決まってるが)2テイクほどであっという間に終わり、今度はBチームと入れ替えで我々Aチームは遠目に映る歩行者となるべく陸橋の反対側まで移動した。
そこからは、買い物袋を手にした美沙が階段を上がりきったところではじめから「ごめん仕事長引いちゃって」という連絡を受け取る場面の撮影。
バランスよく分散して配置され、小さな公園スペースの椅子に腰掛けていることにした私は、演技をする高畑さんを遠目ながら真後ろから見ていた。
後方からは彼女が階段を上がったところでなにやらゴソゴソして立ち止まるだけのシーンに見えたが、それこそそのシーンは何テイクも繰り返していた。
気温の上がりきらない真冬の日に薄手のワンピースのみで監督の指導のもと何度も階段を上がり降りして演技を繰り返す彼女に、これが本当のプロというものなんだと舌を巻く思いだった。
その撮影も終わり、午前の部の撮影が終了した。陸橋を回り当初の広場へ戻っていく。
もうその頃には撮影に足を止める人だかりもだいぶ多くなってきていたが、やはり大部分の人は訝しげに高畑さんを見ている感じだった。誰だかわからないのであろう。
彼女はストーブの傍で大きなダウンを羽織って椅子に腰掛け、スタッフさんとにこやかに談笑しているようだった。
体は芯まで冷えてしまっただろうし、撮影が終わってもまだ足元もピンヒールのみだが、寒そうにも辛そうにも見えなかった。
凛とした女優魂を見た気がした。
そして西田監督。
イメージ、監督とは、演者への演技指導の時以外は大体の時間カメラ脇の椅子に座ってそこから指示を出しているようなことなのかと思っていたが全く違った。
カメラテストや本番と撮れた映像の確認以外はほぼ座っていることなどない様子で常に動き回り誰よりも色々なことを先回りしてやっているように見えた。
真剣な表情がとても素敵だった。
そんなことを反芻しつつ、ひとまず休憩に入る。
いただいたお弁当を広場のベンチで友人と食べながら(もう少し前方のベンチだったなら彼が腰掛けたベンチだったのに(TT)‥しつこいか)撮影の話をし、時間まで付近の店に入り暖をとった。
次は午後。
当然、気になることはたったひとつのことだった。
また同じ広場に集合、先ほどと同じ陸橋の上に上がる。
温まった体がまた冷えていくのが辛いだろうと覚悟していたがもう午後もいい時間、多少陽も出ていて寒さは幾分和らいでいた。
場所は先ほど高畑さんの撮影を行ったところと全く同じ陸橋の曲がり角。
早速立ち位置を振り分けられ、今度はカメラのすぐ脇を指示された。
周りはスタッフばかり、忙しそうに動き回る彼らを何となく眺めながら様子を窺う。
暫くそうして気付く。
高畑さんの姿が見えない。
それに、他のキャストと思われるような方も見受けられない。
それなりに時間をかけ、撮影の準備は殆ど整ったかに思えたが、演者がいないのだ。
監督もスタッフと話し込んだり、カメラテスト的なことが一切始まらない。
不自然なほどそうして時間が流れ、私の胸に或る期待が芽生え始めた頃と時を同じくして、スタッフがインカムらしきもので取っていた連絡がにわかに頻繁になり始める。
スタッフ数名が、陸橋から下を何度も気にするような素振りを見せ、監督もそのようにしながら何やら連絡を取っている。
ああこれは‥!と私が期待を最高に膨らませたその時。
私たちが上がってきたのではない、陸橋を渡りきった反対側の階段から、一度見たら忘れないようなもじゃもじゃ頭の男性がこちらへ歩いてくる。
うわ何あ‥ ‥れ‥ ??!!
コンマ何秒ですぐ気付く。そんな頭の下の見たくて仕方なかった、彼のその顔。
丸ちゃん!!!(T T)
‥てか何その頭!?
マネージャーさんもしくはスタッフさんらしき男性と話しながら、何やら特徴的な顔のようなものがプリントされた衣装を最初に目が合ったスタッフに見せ付けるようにし、小鼻にクシャッと皺を寄せるあの笑顔を見せた。
諸々の衝撃で電流に打たれたように動けないでいる私の真正面の先、彼は隣の男性と話しながら歩みを止めようとしない。
ーよく考えてみて欲しい。
動けないでいる人をA、その正面に向かってまっすぐ歩いてくる人をBとしよう。
BがAを避けるのが一番何事もなく問題ない。
でもBが避けないとしたならばどうだ。
誰もが思い描く通りの、Cの状況が出来上がるではないか‥!!
瞬時にそこまでを思い描き、私の取った行動は‥
動かない体を何とか起動し急いで自分の立ち位置からどいた。
僅か数秒後に、そこを丸ちゃんが通り過ぎて行った。
周りにはスタッフだらけ、話し込んでいてよく注意を払っていなかった、しかもそんなカメラ脇にエキストラが立ちすくんでいるとはまさか思わなかったのだろう。おそらくスタッフの一部のように見えたのだと思われる。
彼はそのまま歩き去り、後方に用意されていた椅子に腰掛けた。
後々考えると「あ!ごめんやで」「い、いいえ‥」的な妄想しか膨らまなかったCの状況、その千載一遇のチャンスを自ら回避した自分を、でもこれを読んでくれる人がもしいるなら賞賛してくれるだろう。輝かしい主演俳優のただでさえデコっぱちな額に万がいちタンコブでも作ったら大変なことだと判断したのだ。
(返すがえすも残念という気持ちもないではないがもう遅し)
しかしそれを残念がっている間もなく、私が一度どいたそのカメラ脇スペースに、あろうことかスタッフが何人もドヤドヤと押し寄せてきて、つんのめるようにその場を離れ、結果的に最初の立ち位置から何メートルも離れた場所に移動せざるを得なかった。
そこは丸ちゃんもよく見えず、立ち位置がなくなりどうしたものかと思っていると、女性スタッフさんが「大丈夫ですか?」と声をかけてきてくれた。
躓きかけながら急いで場所を開けた私の一部始終を見ていたと思われる。
私は「大丈夫です」と答え、そこはそれで済んだ。
だが程なくして、同じく「大丈夫ですか?」とかけてくる男性の声が聞こえた。
パッと見て驚いた。西田監督だったのだ。
一瞬で緊張しながらも「ハイ‥」と頷くと「ごめんなさいね」とすまなそうに軽く頭を下げ、離れていった。
女性スタッフから聞いたか、もしくは自分も見ていたか。
誰かを使わずに、ちゃんと自分の言葉で伝えに来てくれる監督の人柄に惚れた。
Cの状況が惜しかったなど一瞬でも考えた己を恥じた(その場は)。
***
またそこから準備が進み、午後の撮影が始まります。
満を持して登場した彼の撮影の様子をレポしようと思いますので後編をお待ちください!